2011年3月1日

オレンジ蜘蛛のストーリー

オレンジ色のクモの親子が現れました。

まあるいお母さんグモの背中の上に、ちっちゃな娘のクモが乗っかっています。お母さんグモは、娘を優しく地面に降ろすと、こう言いました。

「さあ、ここからはおまえの道を歩きなさい。おまえがここから一緒に持っていけるのは、私の愛と智慧と力だけ。これからもし道に迷ったら、立ち止まって耳を澄ませなさい。応えはすべておまえの中にあるのだよ」

そう言うと、お母さんグモは去っていきました。残された娘グモは、一体何をどうしてよいかわかりません。急に一人ぼっちになってしまい、悲しくて寂しくて仕方ありません。しばらくそこにうずくまっていると、北から風が吹いて来て、頭上でカラスが鳴きました。

声の方を見ると、カラスは北の空に向かってしきりに鳴いています。すると、北の空にあった扉のような形をした雲の人たちが、それに応えるように切れ間を作り、そこから優しい声が聞こえてきました。

懐かしい声。ああ、それはずいぶん前に天に召されたグランドマザーの声でした。

「かわいい孫よ、よくお聞き。いとしい我が娘であるおまえの母が、そのいとしい娘であるおまえに言ったことは、かつて私がおまえの母に言ったこと。私のかわいい孫よ、おまえの中には、太古の昔から連綿と受け継がれてきた愛と智慧と力が流れている。まずそれに出会うこと。そこから始めなさい。そのためには、そこに立っている木の人の助けを借りるといい」

すると、また風が吹いて来て、雲の人は扉をゆっくりと閉じてしまいました。

娘グモは、隣に立っている人の足元に歩いていきました。それは空に突き抜けるような大きな赤スギの木でした。赤スギは、その高い所からいつも優しくすべてを見守っています。太く地中深くまで伸びている根や、しなやかに広がる枝、生い茂る豊かな細い葉からあらゆることを感じ取り、あらゆることを聴いています。

「私はこの大地に生を受けたときから、この地上で起こったすべてのことを知っている。さあ、私の根元をしっかりと感じたら、少しずつ登っておいで。そのとき、私を身体全体で感じ、私とひとつになるのだよ。そうすれば、次に何をするかがわかるだろう」

お母さんもグランドマザーも去ってしまったけれど、娘グモはもう一人ではないことを知り、それだけで嬉しくなってきました。赤スギに言われた通り、巨大で力強い根を踏みしめ、注意深く感じてみました。

「そう、足で感触を味わってみるといい。目で見ることよりも、感じることを信じるのだ。そしたら、今度は身体全体で感じてみるとよい」

娘グモは目を閉じて、まず足で感じてみました。するとみるみるうちに、自分の足から根が生えて、地中深くに伸び始め、あっという間にそこらじゅうにはびこってしまいました。

「この世界の根源的な答えは、すべてこの大地にある。途中で根が石にぶつかったら、それを取り除いて、さらに深く伸びなさい。根が深ければ深いほど、おまえという木はより大きく枝葉を広げ、天に届くほど空高く成長できる。そして、忘れるんじゃない。おまえの後に続くすべてのいのちは、今ここにいるおまえが根となって始まり、おまえを通じて育まれることを」

娘グモの根は乾いていたので、赤スギの言葉はまさに恵みの雨でした。この言葉をゴクゴクと飲み干すと、体の細胞の隅々までがイキイキとし始めました。

娘グモは力強く立ち、今度は身体全体で感じてみました。すると、身体が足元から上へと伸び始め、途中から枝が出て横へと伸び、上へ横へとグングン大きくなっていきました。そうやって、赤スギの力を身体いっぱいに感じ取りました。

「さあ、上へ登っておいで。今度は私の内側をもっとよく感じ取ってごらん」

娘グモはドキドキして足がすくんでしまいました。赤スギの幹は、あまりにも神々しかったからです。

「決して自分を卑下するんじゃない。おまえのいのちも、すべてのいのちも等しく気高いのだ」

娘グモは目を閉じて、赤スギの内側を注意深く感じ取るように、8本の足でゆっくりと登り始めました。木の皮は、なんて温かくて優しいんだろう。それを感じ取った瞬間、意識がスッと吸い込まれるように、幹の内側へと入っていきました。

目の前にある情景が現われた途端、この大地でこれまでに起こったあらゆることが、ものすごい勢いでトンネルの中を進むがごとく流れ去っていきました。と同時に、それと同じスピードで、中心から外側に向かってひとつひとつ年輪が広がっていきました。

「思い出すのだ、おまえの中に受け継がれた愛と智慧と力を。見るのだ、おまえの先に続く世界を。核になれ、パーソナルパワーを呼び覚ませ。愛と智慧と力の核だ」

赤スギの言葉と共に、光の渦が娘グモを取り巻きました。真っ白い光の粒にもまれ、この光の中で、娘グモの目からは堰を切ったように涙が溢れ出て、しばらくの間止まりませんでした。間もなく、娘グモの下腹が細かく振動し始め、そこが熱を帯び始めました。

「さあ、もっと上に登っておいで」

娘グモは、木の2/3ほどの高さの所まで登っていきました。そこはとてもとても高くて、下の世界が豆粒ほどになってしまいました。しかし、そこからは、はるか遠くまで見渡すことができました。

「今度はおまえに会わせたい人たちがいる」

赤スギはそう言うと、てっぺんでじっとこちらの様子を見ていたカラスに合図を送りました。カラスが空に向かって「カアーッ」と一声大きく鳴くと、ビューンと強風が吹き始め、みるみるうちに灰色の雲が現われて、雨が降り始めました。間もなく灰色の雲は黄色を帯び始め、突然雲の中から稲妻が現われました。すると、稲妻の後に雷がとどろき、そのパワフルな音と力に、娘グモの身はキュッと硬くなりました。

「怖がることはない。さあ、雷のエネルギーを観察してよく感じ取ってごらん」

稲妻と雷は、待ってましたとばかりに、大地に向かってものすごい勢いで降りていきました。娘グモは、まばたきひとつせず見ていました。母なる大地が、両手を広げてこの力強い稲妻と雷の人たちからの贈り物を歓迎しているのを、しっかりと見ていました。

遠くに立っていた木を通して大地が受け取った瞬間、地響きと共に、あらゆるものがビリビリと振動し、贈り物はその一帯に分け与えられていきました。

「怖れることは何もない。怖れを超えたとき、純粋な受け取り手となれるのだ。まっすぐに立ち、避雷針になって、受け取ったエネルギーを地へと放つのだ。ただし、しっかりと接地していなければ、その役目を果たすことはできないから、そのことをしっかりと心に刻んでおくがいい」

娘グモは泣いていました。このとき、グランドマザーとお母さんの、こちらを向いてニッコリ笑っている顔が浮かんだからでした。娘グモは感謝の気持ちで胸が震えていました。

「さあ、少し下まで降りていって、そこでお前の人生を編み出す場所を探してごらん」

娘グモは、今は喜びで胸が張り裂けそうでした。「私の人生を編み出す!」

娘グモはドキドキしながらも、少しずつ降りながら枝をひとつずつ注意深く見て行き、やっと自分の気に入った場所を見つけました。

優しく力強い赤スギに見守られ、ここで私は自分の人生を編み出す。そう思ったとき、東の方角から黄金の光が差し込んで来ました。続いて南からは赤い光、西からは青い光、そして、北からは白い光が差してきました。

赤スギと共に、これらの光が娘グモを大きく包み込みました。目くるめく光の中で、娘グモは新しい一歩を踏み出そうとしていました。

「常に心に留めておきなさい、おまえの中には受け継がれた愛と智慧と力があるということを。忘れないでいて欲しい、おまえだけにできる方法でそれを使うということを。避雷針となってこの大地で生き、この大地を歩いて行きなさい。

さあ、中心にある愛の場所に行き、そこから自分の過去を力と智慧に変え、未来に向かって歩き始めなさい。あらゆるもの、出会う人と繋がり合い、助け合い、謙虚にすべてのいのちに敬意を表し、あらゆるものとの関わりの中で独自の創造力を使って人生を編み出し、時には休み、また創って創って、そうやって創り続けるがよい。

嵐が来て創り上げた巣が壊れたり、心ない人に壊されたりしたら、そのときはまた創り直せばよい。今の場所が適さなくなったら、他の場所を探せばよい。太陽が差し込むと光り輝く意図(糸)を張り、編み出していくのだ」

娘グモは自分の軸に入ると、そこから放射状に意図を張り、想いを込めて編み始めました。





(私のオリジナルストーリーでした。長い文書を読んでくださってありがとうございます)

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