2009年3月11日

豊かな島プエルトリコ - 第3日目(1)

すがすがしい朝だった。朝食をとるために、昨夜と同じホテルのレストランに入った。バイリンガルのメニューは嬉しい。卵はフエボス、ハムはハモン、チキンはポヨ、ツナはアトュン。これだけ覚えれば、これからはなんとか注文できる。

昨夜の夕食にサラダをとったが、悲しいほどまずかった。そりゃそうだ、この島ではレタスやキャベツなんて育たないから、美味しいサラダを食べられると期待する方が間違っている。結局、一番無難なパンとスクランブルエッグとベーコン、オレンジジュースに落ち着いた。味付けは優しくて繊細で、日本人の口によく合う。

トカゲくんがご挨拶


朝食に飲んだコーヒーは、それはそれは滑らかで、あっさりしていて実に美味しい。さすが本場!酸味や渋みのあるのコーヒーは苦手なので、私は普段はほとんど飲まないのだが、これだったら毎日飲みたいくらい。コーヒーに入れるミルクが温めてあるのも、配慮があって嬉しい。

残念ながら、プエルトリコのコーヒーはシアトルでは馴染みがない



本日第3日目は、地図の赤いピンから黄色いピンの所までをカバーする。西のマヤグエスという街に寄り、南西端の岬カボ・ロホでカリブ海を見て、島の南の街ポンセに泊まる。


<マヤグエス>
「マヤゲエスはマンゴで有名だってさ」
車を運転しながら夫が言った。とたんに私の頭の中は、オレンジがかった黄色に塗りつぶされた。マンゴジュースにマンゴシャーベット、そのままを売っているフルーツスタンド・・・。マンゴの街。期待に胸が高鳴った。

ところが道に迷ってしまい、夫の冒険心はすっかり萎えてしまった。マンゴが消えてゆく。水を買う必要があったし、昨日から私はフルーツスタンド、フルーツスタンドとしつこく言っていたので、夫はスーパーマーケットに車を入れた。

その名も「PitUSA」。言葉のわからない国を旅していて、マクドナルドやデニーズを見ると、普段は絶対入らないのに入ってしまう、あの心理。夫は「USA」という文字だけで信頼したようだった。

中に入って、あったあったフルーツは。でも、ほとんどがアメリカ本土からのもの。食べやすくて地元産のものは、バナナだけだった。プエルトリコ産のバナナ。丸々としていてはちきれそう。

私たちが買うのは水とバナナだけだったので、エクスプレス・レーン(品目限定のスピードレジ)に並んだ。前に4人ほど客がいたが、ここで20分待たされるとは夢にも思わなかった!レジの人と客のおしゃべりを計算に入れていなかったのである。

それに、レジの反対側から横入りして、質問するついでにちゃっかりお勘定を済ませる人もいる。これでは並んでいる意味がない。エクスプレスが一番スローになっているじゃない。うーん、お国変われば常識も変わる。

それでも辛抱強く待った甲斐があった。はちきれそうなバナナは皮がスルッとむけて、実はねっとりしていて味が濃い。こんな美味しいバナナは食べたことがない。ああ~幸せ。

街の中心の広場(プラザ)に着いた。土曜日だったがあまりひと気がない。店も開いているのか閉まっているのか分からないので歩き回ることはせず、プラザにあったコーヒースタンドで抹茶シェイクを飲んだ。これもあっさりした味で、どこか日本に近い感じだった。

スペインの影響を受けた建物




<カボ・ロホ>
中央の山岳地帯から南側は乾燥していて、カリブ海に面するここでは、サボテンや乾燥地帯の植物を見かける。


カボ・ロホとは「赤い岬」という意味


フェンスもカードレールもないので、落ちてしまいそうで怖い。プエルトリコ版東尋坊?



海塩の産地でもあり、左側の赤色を帯びているのは塩田


カボ・ロホを出る頃にはお腹がペコペコになっていた。昨日も今日もまともな昼食をとっていない。こんなひもじい思いをする旅になるとは思わなかった。

アメリカに学生として来たばかりの頃のことを思い出した。相手の言っていることがわからないため、サンドイッチひとつ注文できなくて(ハムサンドとか卵サンドなどなく、パンやチーズの種類から中に挟むもの、マヨネーズとからしをつけるかなど、全部いちいち指定しなければならなくて、実はサンドイッチが一番難しいが、アメリカに来るまではそのことすら知らなかった)、いつも空腹を抱えていた。

空腹を訴えると、夫はお腹はすいていないという。そんなはずがない。食欲旺盛な彼が、そんなことを言うのはおかしい。そういえば、水もあまり飲んでいない。ああそうか、言葉のわからない土地で、飲み食いをしてトイレを探すのは一番困るから、夫は自制していたのだった。

あいにくカボ・ロホのようなへんぴな所に来てしまうと、夫が一番恐れている個人の小さな店しかない。夫はプエルトリコ人の顔をしているので、どこへ行っても相手は当然のようにスペイン語で話してくる。それが嫌だったようで、英語が全く通じないような田舎の場所では、彼は極力、人と接さないようにしていた。心を閉ざしてしまい、3日目からはスペイン語を聞き取る努力はおろか、どんな簡単なことでも絶対にスペイン語を使おうとはしなくなった。

時差と空腹と強い日差しと高温で、私はクラクラめまいがしてきた。何でもいい、ちゃんとしたものが食べたかった。

「俺は腹は減ってない」夫はそう言って車に乗り込んだ。幸い車にバナナが1本残っていた。私は怒りがこみ上げて、一人でむしゃむしゃ食べてしまった。「今度フルーツスタンドを見たら、私が出て行って買ってくるから。ジェスチャーでも何でもして絶対買うからね!プライドなんてどうでもいい、私はお腹がすいてるの!」

ポンセに向かう道を走っていると、フルーツスタンドらしきものが見えてきたが、直感でわかる。私だったら止まらない。が、案の定、夫は車を道の片側に寄せて止めた。
「フルーツスタンドだぜ!」

「ほら~見てもわかるじゃない」という言葉は、見てもわからない人には、かえって気分を逆なでするだけで逆効果。だから私は黙っていた。

ここはパイナップルで有名な地域だが、スタンドでは、すぐ食べられるように切ったものを売るような、気の利いたことはしていなかった。緑のとがった葉をおっ立てて、横一列に並んでいるパイナップルをうらめしそうに見て、私たちはすごすごと退散した。

「だめだこりゃ~」

<つづく>

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