2008年6月10日

エッセンスのパワー(3)


1本のドーセージボトル(調合したエッセンスが入るボトルのこと)にブランデーを少量混ぜた水(カビや腐敗を防ぐため)を入れ、エッセンスをスポイトに取ってそこに一滴ずつ入れていく。市販の薬の服用量は年齢を基準とするが、エッセンスの処方箋はどうやって決まるのだろう。私は黙って、彼女の手元を見つめていた。

彼女は、まず手に持ったスポイトの頭の部分のゴムを押して、ローズクォーツのエッセンスを吸い取った。そして、ドーセージボトルの上2~3センチ離れたところから、中に一滴ずつ落としていく。エッセンスは音もなく次々と入っていった。

10滴くらい入ったころだろうか、落ちていく滴を見ながら彼女が叫んだ。「これ、まだ入る!」私は意味がわからずじっと見つめていると、スポイトの中のエッセンスは半分以上なくなっていた。「信じられない、こんなの始めて。これ、まだ入るよ!こんなに入ったら、他のが入らなくなるー」彼女はひどく興奮していた。さらに一滴一滴と、滴はボトルの中に落ちていく。彼女は心配し始めた。まだ他に3つのエッセンスが残っているのだ。「どうしよう、まだ入る・・・」

「入るよって言うけど、入れているからじゃない」と私は思った。彼女一人が興奮したり心配したりしていてもその意味がわからず、私はポケッとしていた。とうとうスポイトの中の最後の一滴も入った。「もうこれで終わりじゃないと溢れてしまう・・・」彼女は少しためらった様子であったが、すぐに意を決したかのように再びスポイトに新しいエッセンスを取って、ボトルの上に構えた。緊張した面持ちであった。私は、何が起こっているのか全くわからなかった。

すると、2回目に取った分の最初の一滴がボトルの中に入るやいなや、「ピシャッ」と勢いよく跳ね返るような音がして、私はドキッとした。直径2ミリにも満たない穴から5センチほど落下した滴がボトルの中の波動水に当たった瞬間の音は、彼女から80センチくらい離れて座っている私にもはっきり聞こえるほど大きく響き渡った。

「ああよかったー、これで入った(終わった)」彼女は興奮と緊張で少しほてった顔を上げ、ほっとしたように言った。「ねっ、音がしたでしょ、その音でわかるの。それにしても異常なほど入ったねえ」

驚いた。最初の20滴近くは全く何の音も立てなかったのに。どうしてあの一滴であんな大きな跳ね返るような音が出たのだろう。

そんなことを考えているうちに、彼女は早くも2つめのエッセンスを入れようとしていた。一滴、二滴、そして三滴目で今度は「ポン!」と弾けるような音がした。さっきのエッセンスと同じくらい大きな音であったが、音自体は全く違っていた。どちらも、あの小さな穴から出る滴が、その小さなボトルに入る音とは思えないような音であった。

彼女は、通常このように音で判断するということである。これを彼女は「エッセンスが教えてくれる」と表現していた。

そして、3つ目のエッセンスも同じように音で合図してくれ、いよいよ最後のエッセンスとなった。今度も最初のエッセンスのように音もなくどんどん入っていく。が、しばらくすると彼女がうなった。「う~、ああダメ!これ以上入らない」何をうなっているのだろうと見ると、彼女はスポイトをボトルの上に持ち上げたままじっとしている、というか力んでいた。「これ見て!こんなに押しても入らない」

私は前のめりになってよく見てみると、スポイトの中にはエッセンスがまだ半分ほど残っている。ところが、頭の部分のゴムはぺしゃんこになるほど強く押されているのにも関わらず、エッセンスがまるで蓋をされてしまったかのように全く出てこない。そんな馬鹿な・・・これじゃあ、マジックの世界じゃないの。

「このエッセンスはこれ以上入りたがっていないから、これで終わりってことだね」と彼女は言い、スポイトに残っている分をマザーエッセンスのボトルに戻した。そして、最後に再び私の手を取って、調合したエッセンスのボトルの上でペンデユラム(振り子)を使って、口に含む回数と滴数を確認した。

それぞれ独特の弾けるような音を出したり、押しても入ることを拒むエッセンス。ここで私が聞いたり見たりしたことは、普通の感覚ではわからないことであった。しかも、彼女はエッセンスを意思がある人間のように扱っていた。エッセンスには意思があって、適量を教えてくれるというところだろうか。

その「意思」とはどこから来るのかと思いを巡らせると、「宇宙の仕組み」のようなものに行き当たる。それは、多次元の目に見えぬ波動の世界。私たち人間の頭では理解できない、いわゆる神秘の部分と言える。

「それにしても、ローズクォーツすごかったねー。異常なくらい入ったねえ。こんなの初めて」そのとき、その「異常なくらい」という言葉が心の片隅で少し特別な響きを持って残ったが、私は新しい調合エッセンスが出来上がったことが嬉しくて、それ以上考えることはなかった。

その晩、私は彼女の家に泊まり、翌日新しいエッセンスを持ってワクワクしながら帰途に着いた。シアトルから日本に戻って4日目のことであった。途中で1週間沖縄に行くことを除き、これからほぼ1ヶ月間、実家で家族と一緒に過ごすことになる。

「明日は4月1日。新しいエッセンスを始めるには、パーフェクトな日だなあ」そのときは、ローズクォーツが「異常なくらい」入る必要があった理由などつゆとも知らず、新幹線の中で一人ほくそ笑んでいた。

今でこそはっきり言える、「すべてのことには偶然はなく、完全なタイミングでやって来る」と。

<つづく>

1 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

こんにちは