2008年1月11日

トワイライトゾーン、単なる偶然を超えたとき

私の夫は左脳人間で、思考においては感情が邪魔することはなく、論理的で明快に判断する頭脳を持っている。私も脳はほとんど左ばかりを使う仕事をしているため、必然的に左脳人間であったが、8年前のある日を境に目に見えない世界という左脳では処理できない世界に引き込まれることとなり、その後速いスピードで新しい世界がどんどん展開していった。私は夢中になり、ためらいもなく導かれるままに進んで行ったが、気がついたら夫と私との間にはギャップが生じてしまっていた。

夫は、私が自分の手の届かない世界へ行ってしまうのではないかと強い不安に襲われたようで、私に対して不快感を示し始めた。無理もない、私が豹変したのだから。私も立ち止まって考えてみると、二人で共有できない、楽しめないというのは寂しいことであるということに気づき、これでよいのかというあせりが生じ始めた。このままではいけない、でも何とかして自分が今経験しているこの世界を知ってもらいたいと強く願っていたところ、夫に実に不思議な出来事が起こった。それは今から7年くらい前のことである。

その頃、よく二人で家の近くの中国レストランにランチを食べに行っていた。ある日いつものように行ってみると、今までとは違う新しいウェイトレスのおばさんがいた。オーナーの奥さんかと思うほど落ち着きがあり、恰幅のよい人であった。

常連は決まったものを注文するものだが、私たちもそこへ行くといつも決まって特製ヌードルを頼んでいた。この日もそれを注文しようとメニューをたたんで待っていたら、おばさんが親しげな様子でテーブルにやって来て、夫に声をかけた。まるで友達にするような挨拶の仕方である。なれなれしい人だなと思ったが、特に気にせずヌードルを注文すると、メモする様子もなく確認することもなく、とても軽い調子で受けるので、変だなと思った。

間もなくヌードルができあがって、それを運んできた彼女は、夫にわけのわからないことを話し始めた。こちらがキョトンとしていてもベラベラ話し続け、個人的な内容の話となって行く。とうとう我慢できずに夫は彼女をさえぎって、「あの~すみません、人違いじゃないですか。私はあなたに会ったことはないんですけど」と言うと、彼女はびっくりしたように目を見開いて「なに冗談言ってるの!」と取り合ってくれない。

夫も必死になって、このレストランにはよく来るが、いつも違うウェイトレスで、あなたに会うのは今日が初めてだと繰り返した。すると、彼女はまだ信じられないという顔をして
「あれーあなたじゃなかったの?あなたとそっくりの××さんという人がいて、その人はいつも○○寺院に来てるんだけど」

「○○寺院?」夫と私は顔を見合わせた。そんな名前聞いたこともない。名前からすると中国人が行く仏教寺院か・・・。夫は中国人ではない、プエルトリコ系アメリカ人である。

「それにしてもホント似てるわねえ。その人もここへ来るときはいつもそのヌードルを注文するのよ。ホントに××さんじゃないの?」とおばさん。そして、まるで××さんが他の女性と来たところをおばさんとばったり出会ってばつが悪く、ウソをついてごまかしているのではないかというように、横目で私をチラッと見ると、肩をすくめて店の奥へと入っていった。

そんなことがあって、その日はずっと変な気分だったが、よく似た人は世界に7人いると言われているので、そんなこともあるのかと受け流そうとしていたら、今度は追い討ちをかけるように、それから数日とたたないうちにショックなことが起こった。

夫も私も家でコンピュータに向かう仕事をしているため、定期的にジムへ行って運動をしている。その日は水曜日の午後だった。私はエアロビクスをしてから筋力トレーニングをし、夫は筋力トレーニングだけに集中する日であった。ジムには、所狭しと部屋一杯に様々なマシンが並んでおり、特定の筋肉を鍛えるために、その中からいくつか特定のマシンを選んでコースにしてトレーニングをする。人によって目的が違うため、コースとして組むマシンの種類は当然違ってくる。また、マシンは使う人の足の長さや座高の高さに合わせたり、トレーニングに合ったウェイトの重さにするため、ひとつひとつ設定が異なってくる。そのため、マシンは使う前に必ずひとつひとつ調節しなければならない。

そのジムでこの出来事は起こった。その話は、運動が終わって車に戻ったときに「信じられないことがあった」という夫の言葉で始まった。

「ジムに俺がいたんだ」と夫は言った。
「へっ?」
「俺が運動しているのを見たんだ」
「・・・??」
「俺とそっくりのヤツがいて、俺と同じことをしていた。俺が使うのと全く同じマシンを全く同じ順序で全く同じ設定で使ってて・・・」

どうもその人は夫と同じコースでトレーニングをしていたようだが、常に夫の1つ前のマシンを使っていたそうだ。コースの全マシンの組み合わせがピッタリ同じなため、夫は嫌でも彼の後について回ることになり、しかも彼が終わった後のマシンの設定は、夫が必要な設定そのものであったという。背格好が同じなら、いすの高さなどが同じになるのはわかるが、ウェイトの重さまで同じというのは気味が悪い。

そして、夫がそう思っていると相手も感づいたのか、夫を意識するようになったという。その人は白人で人種は異なるが、顔の作りはもちろんのこと、背格好や雰囲気、すべてがそっくりだったという。見てみたかった・・・。

そんな風に、夫はその人の後をついて回っていたが、ある時にけんすいをするマシンで二人が一緒になったそうだ。けんすいマシンは2つ並べて置いてあるので、隣通しに並んですることになった。夫は横目で相手の設定を見ると、やはりピッタリ同じだと言う。 設定レベルは1~10まであるのに。そして、気づくと相手も横目で夫を見ていたという。彼も同じことを考えているのが手に取るように伝わってきたそうだ。

そんな風にしてトレーニングが終わった後、夫はシャワーを浴びて帰る支度ができたが、私がまだ運動していたので、私を待つことになった。そういう場合、夫はよく角にあるスターバックスにコーヒーを買いに行く。その日もコーヒーを飲もうと歩いて行き、2つあるうちの1つの入り口のドアに手をかけた瞬間、中からドアが開くので手を引っ込めると「あの男性」がコーヒーを片手に出てきたという。二人がドアで鉢合わせになり、お互いにびっくり仰天。それでも、「知らない人同士」なので会話するわけにもいかず、何も言わなかったが、相手も明らかに動揺を隠せなかったようだという。外観や雰囲気が似ているだけでなく、行動までが同じとは!

しかし、なぜこのタイミングでこの男性に会ったのだろう。実は、その男性が受付カウンターで係りの人と雑談している後ろを、夫が通り過ぎるときにチラッと聞いたところによると、彼はその日「たまたま」会社が休みだったので、昼間の時間に運動しに来たということだ。私たちはいつも昼間にしか行かないため、彼に会うのはそれが最初で最後になるだろう。またしても、不思議な出来事。これは、先回よりも強烈だった。

その翌朝、夫はボート漕ぎのクラスに行ったら、以前同じクラスを受けていた人が久しぶりにやって来て、「昨日ウォリングフォード(町の名前)のピザ屋でピザ食べていたね」と言ったという。ピザ屋は絶対に行かない所のひとつなので、「そんな所行ってないよ」と言うと、「いいえ、あれは絶対あなただったわ。同じようにそんな帽子かぶってたよ」

夫の反応はご想像のとおり。しかし、3件もこのような出来事が続くと、これはただの偶然ではないとしか言いようがない。もう十分気味悪い思いをしている。

ところが、まるでそれでもまだ足りないかのように、夫はこの不思議な現象から解放されることはなかった。それも現象の度合いがエスカレートしていく。それがどれほどのものかは、家に帰って来た夫の顔が、ゆがんでほとんど蒼白になっている様子からうかがえた。

それは、ピザ屋の話から1週間ほどたった日のこと。夫は普段家で仕事をしているので、ダウンタウンへ行くことはめったにない。行くとしても年に2回ほどだろうか。その日もその数少ない日のひとつで、終日のセミナーを受講するためにダウンタウンへ行った。

ランチの休憩時間に、食事を終えてから通りに出ているスタンドでコーヒーを買うため列に並び、自分の番が回ってきたので注文したそうだ。ランチタイムで賑わう雑踏の中で大きな声を張り上げて注文している姿が目に浮かぶ。ちなみに夫のコーヒーの注文は、ちょっと変わっている。
「Double tall split shot two percent(レギュラーとデカフェを半々にしたエスプレッソを2ショットに、低脂肪の牛乳を多めに入れたのをください)」
するとバリスタが小さな声で何かブツブツ言ったので、「はい?」と聞き返すと
「昨日と同じのね・・・」と言ったという。
「ええー?!・・・・・ちっ ちょっと、俺はここへは昨日は来てない。ダウンタウンへは年に2回ほどしか来ないんだ。昨日ここで、コーヒーを頼んだなんて絶対にあり得ない!」

この間からこんなことばかりなので、またかというように夫は声を荒げたという。するとバリスタの女性は、「でも、ここへ来たんだもん」と言ってから、ゆっくりと顔を上げると無表情にじ~っと夫の目を見つめ、それからうんざりした顔で
「あなた、記憶障害か何かです?」と言ったそうだ。
その瞬間、夫はショックで周りの風景が少しずれて見えたという。まるで体の一部が他の次元に入り込んだかのように。
「もうたくさん!頭がおかしくなりそうだ。俺は今いったいどこにいるんだ!」

考えてもみて欲しい。Double tall split shot two percent・・・そんな変てこな注文をする人はそう多くはない。それだけでも確立は低いのに、夫と瓜二つの人がまったく同じ注文をするという確立は、一体どれくらいになるだろう!言っておくが、夫の顔はそうあちこちにいる顔ではない。

「昨日と同じのね」ということは、そのバリスタの女性とその男性は何かの会話をして、あるいは彼が時々そこへ来る人で、彼女の記憶の中にしっかりあるということであって、まったく見知らぬ人に対して彼女が当てずっぽうに言ったわけではないと考えられる。

「この間から、急に現われて付きまとう自分によく似た男性の影、それも毎回場面も服装も異なる。一体誰だろう。それともひょっとして、それはすべて自分で、過去と未来が逆になったのか」

トワイライトゾーン、もう一人の自分・・・。こうなると、もう左脳が好きな論理は通じなくなる。

その後も、夫は友人宅へ招かれてバルコニーから外を見たときに、庭の向こうに自分によく似た人が歩いていたところを目撃したりしている。中国レストランから始まったこの一連の出来事は1ヶ月くらいの間に立て続けに起こり、友人宅での出来事を最後にピタリとなくなった。

普通の感覚では理解のできないことが存在するのである。シンクロニシティ(偶然の一致)が重なって単なる偶然を超えてしまうと、抵抗することも排除することもできず、ただ認めるしかない。そして、自分が何か説明のできない力に導かれているかのように感じるものである。日常の出来事の水面下で何か意味のあること、それも深いメッセージを秘めた何かが起きていると感じたときに、新しい気づきが始まるのである。

ちなみにこの一連の出来事が起こる数日前に、私は夫と二人で自転車に乗って近所を走っている夢を見た。道は狭くて砂利道で、人もいるので運転しにくい。倒れそうになるが、後ろに夫が乗っているので、一人だったら倒れるところでも二人なのでうまくバランスがとれる。その夢の中で私は「二人だったら安定してるね、倒れないんだね」と言っている。

夫とのギャップに悩んでいたときに起こった出来事。それは見えない世界へのいざないであったのだろうか。宇宙からの応えは、私一人で勝手に突っ走って行くのではなく、夫にもある程度理解してもらい、二人でうまくバランスを取って歩んでいくことが大切なのだということのようだ。このことをきっかけに、夫も見えない世界を尊重するようになった。

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